釧路市東部(釧路市興津)で建設されている釧路火力発電所は、(株)IDIインフラストラクチャーズが出資する(株)釧路火力発電所が運営する石炭火力発電所です。規模は国の環境アセスメントの手続きの対象となる11.25万kWをわずかに下回る11.2万kWで、国の環境アセスメントをせずに建設着工が進められてきました。工事は一時的に遅れが発生していたものの2019年に再開し、予定の半年遅れの2020年11月から本格稼働することとなっています。

釧路火力発電所の概要

事業社名株式会社 釧路火力発電所
出資者株式会社IDIインフラストラクチャーズ
住所北海道釧路市興津1丁目14番 (太平洋興発敷地)
設備容量11.2 万kW
燃料石炭(20~30万t/年)
*バイオマス燃料30%程度を混焼するとしている。
運転開始2020年11月予定  *2020年4月試運転開始 
CO2排出量51.2万トン-CO2/年
※釧路火力発電所建設事業環境影響評価書p7.4.1-3

石炭火力発電所による環境破壊のリスク

 石炭火力発電所は大量の大気汚染物質や温室効果ガス(二酸化炭素)を排出するため、火力発電所の中でも特に環境への悪影響が大きい発電方法です。特に以下の3つの点で大きな問題があります。

1 近隣住民の健康被害

 発電所から排出されるばい煙や窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)によって大気が汚染され、近隣住民の健康に影響を及ぼすリスクがあります。釧路火力発電所から5㎞圏内には多くの学校や病院・クリニックなどがあります。特に、子どもや高齢者、疾患を持つ方などにとって様々な疾病(ぜんそく、アレルギー、心肺機能への影響、脳梗塞など)につながる可能性があります。

図1 釧路火力発電所の近隣施設

2 気候変動の加速

 石炭火力は化石燃料の中でも一番多くのCO2を排出し、その排出量はLNGの約2倍もあるため、気候変動を加速させます。将来世代に甚大な被害をもたらす恐れがあります。発電方法は最近では太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーへの転換が世界的に進んでいることもあり、多くの先進国が石炭火力発電所の廃止を決めています。国連のグテーレス事務総長も2020年以降に新規石炭火力発電所を運転することを止めるように各国に求めているのです。

3 酸性霧の増加

 釧路は酸性霧が問題となっており、これにより木の立ち枯れなどが起きます。石炭火力から排出される硫黄酸化物が増えれば、これまで以上に霧の酸性化が進み、釧路湿原など釧路の豊かな自然環境を破壊する懸念があります。気候変動問題もそうですが、環境破壊の被害が目に見える形になってから対処するのでは手遅れです。

釧路火力発電所を取り巻く構造とフロー

 釧路火力発電所の石炭は、地元で採掘した石炭を燃料とする「地産地消」だと言われています。事業者のこれまでの説明によれば、石炭採掘から発電、売電までの流れは以下のとおりです。多額の税金が投じられて一度閉山した炭鉱を復活させ、石炭採掘事業を再度スタートし、そこから掘り出した石炭を燃料として発電し、つくった電気を売ることになっています。

  しかし今、人類の存続も危ぶまれるような気候変動の危機に直面している今、世界で石炭火力発電所からの撤退の動きが加速しており、完全に時代に逆行した事業だと言わざるを得ません。釧路火力発電所についても以下のような問題を指摘できます。

1 石炭採掘事業は成り立たない

 2002年、太平洋炭鉱が閉山となり、釧路コールマイン株式会社(KCM)が石炭採掘事業を引き継ぎました。しかしかつて500万トン/年あった採炭量は、KCMに引き継がれた当初で70万トンに落ち込んでおり、さらにその後減少しています。KCMの採炭量は減少に伴い、石炭を運搬する列車は2019年6月に廃線となっています。陸地側の石炭はすでにすべて掘り起こし、海底にあった石炭ももはやほとんど残っていません。“地産地消”の事業は成り立たない可能性が高いのです。

かつて釧路炭鉱で使われていた採炭機「コンテニアスマイナー」

2 世界はダイベストメントが加速

 世界の金融機関や機関投資家は、化石燃料関連産業(採掘や発電事業)からの投融資を引き揚げる、いわゆる“ダイベストメント(投資撤退)”の動きが加速し、大手金融機関を含めた様々な組織が石炭撤退の方針を表明しています。それは、世界が気候変動の危機に直面する中、化石燃料関連産業に投資しても回収できなくなる可能性が高いからです。化石燃料の中でも特に石炭関連事業は、もっともそのリスクが高く、将来「座礁資産」になると言われています。

3 時代は再生可能エネルギーへ

 今、世界的に様々な企業が、電力を100%自然エネルギーで賄うことを宣言する動きが加速しています。例えば北海道では、コープさっぽろが「RE100(自然エネルギー100%を宣言するイニシアティブ)」に加入したことを発表しています。今、電気は選べる時代になっており、石炭火力発電所のようなCO2の排出が大きな発電方法による電気は売れなくなる可能性が高まっています。とりわけ北海道は、自然エネルギーのポテンシャルがとても高い地域です。これからは、気候変動問題をきちんと考慮した再生可能エネルギーを大きく増やしていくことこそ未来への希望につながります。
 なお、釧路火力発電所の出資者であるIDIインフラストラクチャーズが出資する電力小売会社F-powerは赤字が続き、北海道の電力小売り事業から撤退することを表明しています。