会報26号 困難伴う二酸化炭素回収・貯留技術

 日本政府は2021年10月22日第6次エネルギー基本計画を作成しました。「2050カーボンニュートラルに向けた長期展望と、それを踏まえた2030年の政策対応により構成し、今後のエネルギー政策の進むべき道筋を示す」とされています。具体的には、「2050年カーボンニュートラル、2030年温暖化ガス46%削減」です。

 釧路石炭火力発電所からは、年間50万トンの二酸化炭素が排出されます。釧路市全体で排出される二酸化炭素ガスの四分の1に当たります日本政府の政策では、2030年には日本全体で温暖化ガスの46%を削減すると決めています。北海道も46%削減の検討に入りました。この全体での46%削減を実現するためには、火力発電所に関して、その排出する二酸化炭素の45%の削減が必須とされています。

 釧路石炭火力発電所は年間50万トンの二酸化炭素を排出します。その削減しなければならない二酸化炭素量は22万トンです。COP26に於いて、「二酸化炭素削減への対策が取られていない石炭火力発電所は順次、削減する」との取り決めが各国合意のもとで決定されました。

 釧路石炭火力発電所では、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)と呼ばれる二酸化炭素を回収して、石炭を掘り出した後の空洞に戻して貯留を行うという二酸化炭素削減対策を行う予定です。2030年には年間5万トンの二酸化炭素の処理が行われるとのことです。このCCSと呼ばれる技術は、石炭火力発電所の二酸化炭素排出削減対策として期待され、環境対策が進展しているヨーロッパに於いては、2000年代の早期から度々試作が行われて来ました。しかし、この技術を実行することは種々の大変な困難が伴い、たびたび頓挫しました。

 2019年3月に開催されたヨーロッパ自然エネルギー財団の国際シンポジウムにおいて、ヨーロッパ連合の脱炭素政策を担当するマシュー・ バリュ氏(ヨーロッパ委員会再生可能エネルギーおよびCCS政策局政策オフィサー)は、その会合で次のように述べました、「10年前、ヨーロッパは火力部門のCCSに大きな期待をかけた。だが、経済的、技術的な理由で実現はできなかった。もはや、電力部門の二酸化炭素対策としての位置づけにはできない」と述べました。

 現在稼働されているCCSの技術は世界全体で20件、枯渇してきた油田の油を地下から押し上げるために、回収した二酸化炭素を地底に注入する技術、EOR(Enhanced Oil Recovery)原油増進回収と呼ばれる方式です。石油増産という経済的恩恵を前提に成立している技術です。このような恩恵をもたらす条件に敵うようなところは、釧路地域はもちろん日本国内にはありません。上記したヨーロッパのように、単に二酸化炭素を貯留することは経済的、技術的な困難に直面することは明白です。

 価格を考慮する場合でも、経済産業省は、CCS火力発電所の発電コストを1kW13~15円に設定しています。太陽光発電コストは1kW7円です。国もCCS火力発電所は経済的には劣ることを暗に表明しています。このCCSの選択は、結局、わたしたち市民が高い電気代を支払うことで跳ね返って来ます。

 1973年、石油ショックの際、アメリカのキツシンジャーにより設立されたIEA(International Energy Agency)国際エネルギー機関は、2030年には太陽光発電は1Kw3円~5円、陸上風力発電は1Kw4円~6円、洋上風力発電で1Kw6円~8円になるとしています。新電力会社などの電気販売会社は、当然クリーンで安価な電力を購入することになるでしょう。

 釧路石炭火力発電所は、騒音問題もさることながら、要求される、2030年45%の二酸化炭素削減を十分におこなうことは不可能で、CCS発電という値段が高い電気を作り出す発電所ということになってしまいます。

発電所安定操業の疑義

 経済産業省より、興津の釧路石炭火力発電所の、操業開始令和2年12月4日から令和3年7月までの発電量が公表されました。

 発電所は、定格の11万2000kwの出力で運転しているとのことですが、実際にはそのようにはなっていないようです。特に、令和3年4月は、4万9500kwの発電にとどまり定格発電11万2000kwには、ほど遠い状況です。

 また、釧路石炭火力発電所で、令和2年12月から令和3年7月までの発電のために消費された石炭の量は、合計13万9,350トンです。令和2年12月から令和3年7月までに釧路コールマインが掘り出した石炭の量は18万5,600トンです。発電所の消費量よりも4万6000トンほど多くが採炭されています。     

 繰り返し騒音騒ぎを発生させる釧路石炭火力発電所の問題の改善には、発電所の安定的運営は必須のことです。月により発電量にかなりの差異があり、安定的な操業が行われているのかの疑義が残ります。

●釧路石炭火力発電所発電量(経済産業省発表、定格発電量112,000Kw)

令和2年12月    108590Kw

令和3年1月        92493Kw  

令和3年2月   91484Kw

令和3年3月   84087Kw

令和3年4月   49488Kw

令和3年5月  100423Kw

令和3年6月   91456Kw

令和3年7月   87624Kw

●釧路石炭火力発電所月間石炭消費量

令和2年12月   19347トン 

令和3年1月   18145トン

令和3年2月   15670トン

令和3年3月   16513トン

令和3年4月   8907トン

令和3年5月   19293トン

令和3年6月   19668トン

令和3年7月   15927トン

石炭消費量合計139,350トン

●釧路コールマイン月間石炭生産量(石炭対策特別委員会発表分)

令和2年12月  22,900トン 

令和3年1月  23,000トン

令和3年2月  23,100トン

令和3年3月  24,200トン

令和3年4月  22,800トン

令和3年5月  23,200トン

令和3年6月  22,700トン

令和3年7月  23,700トン

石炭生産量合計185,600トン