会報29号 難題を抱えるESG、バイオマス発電
元釧路石炭火力発電所所長石井氏は、「釧路石炭火力発電所はESG(Environment Social Governance、環境、社会の企業統治)を基本に経営を行う」と述べました。
釧路石炭火力発電所は、燃料の30%に海外輸入のバイオマスを年間16万トン程度使用しています。使用している石炭の26万トンと比較してもかなりの量が使われています。
バイオマスの種類は木質バイオマス、パームヤシガラ、廃食用油、畜産廃棄物、トウモモロコシ、サトウキビ、ユーグレナなどがあり、釧路では木質バイオマスとパームヤシガラを使用します。
世界的な脱炭素の流れのなか、カーボンをゼロカウントでカウントされる木質バイオマスは熱量も高く貴重な燃料として、世界中から引き合いが増えています。
当初、釧路火発の木質バイオマスの原料は、剪定枝、製材残渣、端材などの廃材を原料に使用するとしていました。
しかし、世界各国が再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)を創設したことにより、木質バイオマスの需要が大幅に増加することになりました。(特に中国による爆買い)
しかし、脱炭素化の社会的要請による木質バイオマスの大量消費は剪定枝、製材残渣、端材などの廃材の供給が追いつかなくなる状況が現出し、自然の森林の伐採がどうしても必要になる状況になっています。
アメリカのノースカロライナ州の山林地主のスプライル氏は、「周辺の天然林がどんどん伐採されている。伐採の目的は木質バイオマス発電だ」(日経新聞21.12.6)
木は成長過程で二酸化炭素を吸収するため、それらの木材を燃やしてもガス排出分を相殺するとみなされ、ESG(Environment Social Governance、環境、社会の企業統治)の観点からも需要が高まっています。
東京都の一般社団法人バイオマス発電事業者協会は、「木質バイオマスの北米からの輸入でも、火力発電よりも温暖化ガスを半減できる」と主張しています。
一方で、米国環境団体マイティ・アースの日本プロジェクト統括マネージャーのロジャー・スミス氏は、「天然林が破壊されている上、燃料を輸入に頼るならば木質バイオマス発電は持続可能な発電ではない」と指摘しています。
パームヤシガラに関しても、世界自然保護基金(WWF.Worid Wildlif Fund)ジャパン森林グループプロジェクトマネージャ南明紀子氏は、パームヤシガラの原料になるアブラヤシ農園開発が森林破壊につながっている。
「一大産地のインドネシアでは安価な手法として熱帯林を焼き払い、アブラヤシ農園を拡大するケースが後を絶たない」
日本の1.9倍の国土面積があるインドネシアボルネオ島の熱帯林面積は、1950年と比べ半分ほどまでになっています。
ESGを前面に掲げ、バイオマスを使うことにより脱炭素を推し進める企業の事業活動は、熱帯林や泥炭地の開発により、温室効果ガスの発生に寄与している、生物多様性の減少など自然環境を壊す可能性が常につきまとう課題があることの考慮が必要です。
二酸化炭素の排出量がゼロになることにより、安易に発電所燃料を海外バイオマスに頼ることによる弊害に目を向ける必要があります。
不安視される発電所経営環境
釧路石炭火力発電所は、東京の投資会社のIDIインフラストラクチャーズにより投資ファンドが設定され、運営されています。
雑誌「選択」によりますと、今年3月17日にIDIインフラストラクチャーズは、東京地方裁判所から会社解散判決を受けたとのことです。
会社側は控訴をするとのことですが、会社は資金ショート寸前の状態にあり、数十億円規模゜の損害賠償を課されるのは必至とのことです。
現在の発電所長はIDIインフラストラクチャーズの社員の方です。
今年1月に就任なされた社長の石坂弘紀氏は倒産したインターネット企業「ライブドア」の代表清算人を担われて方と思われます。
何度も何度も騒音公害を発生させ、釧路と名前の持つ企業、それも発電所という非常に公共性の高い会社が、これからも健全に経営を続けて行くことが出来るのか疑義を感じずにはいられません。
驚きの時代錯誤認識
釧路コールマイン佐藤公勇取締役は坑内埋め戻し技術の説明で、「弊社としてはエネルギー産業に携わる企業として、今後も石炭を有効活用するための技術開発を行い、必要とされる社会的役割を果たしてまいりたいと思います」と述べたとのことです。
コールマイン二酸化炭素坑内埋戻し実証実験開始、今年4月5日、石炭灰に二酸化炭素を注入し鉱物化する実験施設が完成しました。5年後をめどに実用化を目指すと。
鉱物化される二酸化炭素の量は5万トン、釧路発電所から排出される二酸化炭素の量は50万トン。十分の一にしかなりません。
また、発電所から排出される排煙から二酸化炭素を取り出す施設はまだ完成していません。
世界的な認識では、二酸化炭素の取り出しは常に経済的な問題を抱えており、大多数の国がこの技術開発はあきらめ、再生可能エネルギーの技術開発に重点を移しています。
PDFファイルです。
https://nocoal-kushiro.jp/wp-content/uploads/2022/05/釧路会報29号完成.pdf