釧路市の第二次釧路環境基本計画(案)に対する意見を提出しました。
釧路火力発電所を考える会では、2021年1月15日、釧路市の第二次釧路環境基本計画(案)に対しての意見を提出いたしました。釧路市は、1月22日(金)まで意見募集をしています。ぜひ多くの人から意見を提出しましょう。
第2次釧路市環境基本計画 素案へのご意見を募集します(WEB)
第二次釧路環境基本計画(案)に対する意見
2021年1月15日
第二次釧路環境基本計画(案)に対する意見
釧路火力発電所を考える会
いま、世界的に氷河の解氷、異常な高温化、海面上昇、集中豪雨に洪水、干ばつや山火事など、各地の気候危機が現実化している。現在、産業革命前に比べて平均気温はすでに1度以上の情報が確認されており、このままいけば3~4度上昇し、非常に甚大なリスクにさらされることが明らかになっている。
こうした状況下、気候危機を回避するためには気温上昇を1.5~2度未満に抑えることが不可欠であり、1.5度の上昇に抑えるためには2010年比で世界全体の温室効果ガス排出量を2030年までに45%削減、2050年までに排出ゼロにすることが不可欠であるとされる。
釧路市が提示した「第二次釧路環境基本計画(案)(以下、「案」という)」はこうした近年の情勢が全く反映されておらず内容も到底気候危機に対応できるようなものとなっていない。そこで案に即して以下に意見を述べる。
1.計画の位置づけ(P6)
(1)パリ協定の内容や国の最新動向をふまえること
案では、第二次釧路市環境基本計画が「第5次環境基本計画」、「地球温暖化対策計画(以下「温対計画」という)」、「北海道環境基本計画(第2次計画)」、「地球温暖化対策の推進に関する法律(以下「地球温暖化対策法」という)」に即すとされている。
しかし、国の温対計画は現在見直し作業が行われており、今年改定される見通しである。少なくとも2050年の温室効果ガス削減目標など80%削減としている現状の計画はアップデートされるものであり、昨年菅首相が国の目標として2050年実質排出ゼロを目指すことを宣言し、これを温暖化対策計画や地球温暖化対策推進法などに反映されるとみられる。
従って、釧路市における今後の温暖化対策も「パリ協定」や国が示した「2050年実質排出ゼロ」に合わせるべきである。
(2)「釧路市地球温暖化対策地域推進計画」は独立した計画として維持すべき
案では、環境基本計画に地球温暖化対策地域推進計画(以下、(推進計画)という)を統合することとされているが、これは時代に逆行する措置である。今後、地球温暖化(気候変動)対策が強化されることが求められる時代において、推進計画を統合し、内容が簡素化されるようなことがあってはならない。
推進計画は、以下に示すような項目を含め独立した計画として策定し、PDCAに基づき、釧路市における地球温暖化対策を評価し、強化していくべきである。
2.基本目標について
(1)「低炭素社会の形成」ではなく「脱炭素社会の実現」とすべき(P17)
2019年6月に閣議決定された「パリ協定に基づく長期戦略」では、日本がめざすビジョンとして「脱炭素社会」が示された。また、「令和2年環境白書」では、脱炭素社会づくりに向けた政府以外のプレーヤーの取組として、2050年に温室効果ガス等の実質ゼロを目指す自治体の取組や、脱炭素化に取り組む企業数が世界トップレベルにまでなっていることが示されている。
気候危機を回避するためには、「低炭素社会」を目指すだけでは不十分であり、二酸化炭素など温室効果ガスの排出をゼロにする「脱炭素社会」の構築があらゆるセクターに求められており、その認識は広く広まっているところである。
環境省の調べによれば2021年1月8日現在で、東京都・京都市・横浜市を始めとする204自治体(28都道府県、116市、2特別区、48町、10村)が 「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明したとされており、表明自治体人口約9,028万人にのぼる。
こうした状況下、釧路市は、「低炭素社会の形成」などという目標を今さら掲げるのではなく、少なくとも国の方針にあわせた「脱炭素社会の実現」を掲げるべきである。
3.目標の実現に向けた施策の展開について
(1)世界の動向で「パリ協定」やIPCCの「1.5度特別報告書」に触れるべき(P22)
案における世界の動向では、2013年のIPCCの第五次報告書について述べるにとどまり、その後の世界の主要な動きが全く反映されていない。自治体の政策決定においても世界の動向を踏まえることが不可欠であり、以下の論点をおさえておくべきである。
①2015年にパリ協定が採択され2016年に発効したこと
②パリ協定の目標では、気温上昇を「2度を十分に下回りできれば1.5度に抑えること」が定められたこと
③ IPCCが2018年に採択した「1.5度特別報告書」では、早ければ2030年には気温上昇が1.5度に達してしまうこと、1.5度に気温上昇を抑えるにはCO2排出量が2030年までに45%削減され、2050年頃には正味ゼロに達する必要があるとしていること
④国連環境計画が2020年12月に発行した「排出ギャップレポート2020」では、国別約束(NDC)を完全に実施しても今世紀中に3.2℃上昇する見込みであるとし、現状の各国の削減目標だけでは不十分だと示唆していること
⑤国連環境計画は、排出実質ゼロ目標を公約した(または検討中の)国は126ヶ国(世界のGHG排出量の51%)にのぼるが、これらの公約を迅速に政策と行動に移し、国別目標(NDC)に反映させる必要があるとしていること
(2)国の動向は最新情報「2050年排出ゼロ」にアップデートすべき(P22)
案では、「地球温暖化対策計画」における温室効果ガス削減目標、2030年度に 2013年度比で26%削減や2050年度80%削減が示されているが、これはパリ協定が発効する前に定められたものであり、現在計画の見直しが行われている。
2020年10月には菅義偉首相が所信表明演説において2050年までの温室効果ガス排出ゼロを目指すことを公式に発表しており、こうした最新情報を盛り込むべきである。
少なくとも、この項において市民一人ひとりに「現在の状況を認識」することを促しているのであるから、釧路市として古い情報に基づき計画をつくるのではなく、最新の状況をアップデートしたものとして市民にも発信すべきである。
(3)削減目標は1.5~2度目標に整合する目標とすべき(P24)
釧路市の温室効果ガスの排出削減目標が2030年度26%削減(2013年度比)、2050年80%削減としているが、これはパリ協定の目標と全く整合せず不十分である。1.5度目標の達成には、世界全体で排出削減目標が2030年45%以上削減(2010年比)、2050年排出ゼロが求められる中、これに見合う削減目標を掲げるべきである。
また、産業部門の排出については2030年までに7%と他部門に比べても非常に甘い目標となっている。産業構造の転換も視野に、削減目標を高くかかげ、持続可能な都市への転換を積極的に行うべきである。
(4)単なる普及啓発にとどまらない施策の実施を(P26)
案では、削減メニューが普及啓発レベルのものにとどまり、具体的に施策をどのように進めるのか、どの程度の省エネ機器・再エネ設備の導入を実現するのか削減目標が全く示されていない。
釧路市は、自然豊かな地域環境を有効利用した太陽光発電、風力発電、バイオマスなど再エネポテンシャルも高い。ZEHやZEBの導入目標、再エネ導入目標を別途定めて施策を実施すべきである。
(5)脱炭素型の産業構造の転換を視野に入れた取り組みの強化を(P26)
2020年、釧路市において存在感の大きい日本製紙が釧路から撤退することを表明した。製紙産業は温室効果ガス排出量の大きな産業の一つであり、この撤退により釧路市の温室効果ガスの排出量は大幅な減少が期待される。
しかし一方で、釧路市における雇用や地域経済の影響も大きいと想定されている。この機会に釧路市において新たなグリーン産業を構築し、産業構造を転換していくための施策を打ち出すことこそが「環境と経済の好循環」をつくる第一歩である。再生可能エネルギーや省エネの促進をするにあたって求められるグリーン産業は多岐にわたる。技術支援や税制措置などをグリーン産業に振り向けることを盛り込むべきである。
(6)石炭産業からの脱却と公正な移行の重点化(P26)
釧路では、2020年に釧路火力発電所が運転を開始した。世界的に脱石炭の動きが強まる中、世界の潮流に逆行すると批判が高まっている。CO2の排出量は年間51.2 万t-CO2もあるとされ、釧路市の家庭部門の排出量52.8万t-CO2に匹敵する排出量である。釧路火力発電所の稼働は、市民ひとりひとりの努力も吹き飛ぶような事態である。
気候危機を回避するためには、これ以上地中から化石燃料を掘り起こし燃やさないようにすることが求められており、釧路でもこうした「脱炭素社会」の方向性を示していくときである。
カーボンリサイクルなど不確実で実用化するかどうかも不透明な技術に頼るのではなく、石炭産業との決別を視野におき、新しい持続可能な社会への移行を掲げることこそが、SDGsの達成に求められる姿である。
ついては、石炭産業に従事してきた人たちが、新たな産業につくためのサポート体制や技術支援体制を強化し、公正な移行をしていくことに市をあげて取り組むべきである。
以上