会報20号:子供たち、お年寄りを排出ばいじんから守る。高濃度の燃焼性硫黄、SOxは本当に大丈夫?

子供たち、お年寄りを排出ばいじんから守る。高濃度の燃焼性硫黄、SOxは本当に大丈夫?

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  かつて釧路火力発電所の建設にあたって、北海道庁主催の住民説明会で事業者は、「燃焼性硫黄0.04%の石炭を使用する」と地元住民に約束しました。

 釧路火力発電所では、年間26万トンの石炭を燃やし、硫黄酸化物(SOx)を排出します。硫黄酸化物は、大気汚染防止法の特定物質で、煙突から排出される有害物質です。過去に四日市ぜんそくなど多くの公害問題や酸性雨の原因となりました。

 煙突が高ければ、より広範囲に広がり、低ければ近隣に落ちるリスクが高まります。

 事業者が住民と上記の約束をした背景には、釧路火力発電所の煙突の高さが55メートルと非常に低いことに起因します。発電所側は燃焼性硫黄が0.04%(と割合が比較的少ない)の釧路産出の石炭を使用するので、煙突がこの高さで良いとの主張していたのです。

 しかし、当会が火力発電所で使用している石炭を分析したところ、燃焼性硫黄は0.09%であることが判明しました。つまり、55メートルの煙突から近隣で硫黄酸化物の濃度が高まる可能性があります。

 住民説明会で、発電所側は燃焼性硫黄0.04%以上の石炭は受け入れないと断言していました。実際は、それを超える海外炭を使用しており、住民に対して虚偽答弁をしていたことになります。

 火力発電所は現状のような海外炭を燃やして稼働し続けるべきではありません。

 なお、釧路火力発電所を経営するIDIインフラストラクチャーズは、大株主の大和証券から資金が流れていますが、現在、発電所の建設代金の未払いがまだ80億円も残っており、これからの厳しい経営状況の中で返済して行かなければならないとのことです。

 釧路火力発電所が取引しているJEPX(電気卸取引所)の卸価格が1kwあたり6円から7円になっています。釧路火力発電所で作り出す電気は1kwあたり14円から15円かかります。売れば売るほど赤字になります。

 このような状況下で住民に公害の被害を負わせることなく、健全な経営を維持出来得るのでしょうか。

 いずれにしても、今月12日になり、発電所は運転停止しました。事業者側は「定期点検」だとしていますが本当でしょうか。いずれにしても、釧路市民に対し、発電所の経営状況、使用している石炭、発電所の公害対策についての詳細な説明が必要です。

桜ケ岡ヒルトップの貯炭場。釧路港から大量の海外炭が運び込まれています。ここから発電所に石炭が供給されています。

グリーン産業への転換を

 本年11月、イギリスのグラスゴーで開かれる国連気候変動枠組み条約会議(COP26)は、気候変動対策を強化する極めて重要な転換点になるでしょう。これまで気候変動対策を牽引してきたヨーロッパに加えてアメリカのバイデン政権が気候変動政策を非常に重視しており、石炭火力発電所に対しても対策が強化される可能性もあります。科学に基づく温室効果ガスの排出削減が求められ、石炭火力規制の強化は日本でも最大かつ必須の課題です。

 釧路火力発電所を経営するIDIインフラストラクチャーズの大株主の大和証券も、石炭を使う釧路火力発電所から、一日も早くの撤退を考えているとの情報が当会に寄せられました。

 新年度に入り、釧路市の人事異動で、昨年度まで産業振興部長だった秋里喜久治氏が副市長に就任されました。秋里氏は釧路の石炭産業の振興にご尽力されてきた方です。

 秋里氏は就任挨拶において、「職責の重さと期待に身の引き締まる思い。市民のモチベーションを高めることでマチの将来は違ったものになる。活性化を図ることが市の最大の役目と肝に銘じて精進したい」と抱負を述べられました。

 蝦名大也市長も、「新副市長を盛り上げながら、職員が一体となって市政を進めていきたい」と激励されました。

 秋里副市長が発言されるように「市民のモチベーションを高め、活性化を図る」ために、未来を見据え、世界を見渡す観点から考える時、一刻も早く石炭産業からの脱却とグリーン産業への移行をとスムーズに行う環境を整えることが自治体の責務です。ジャストトランジション(公正な雇用移行)を実行し、将来に希望が持てる産業を育成しなければなりません。

 炭鉱で働いている方に話を伺っても「やりがいを感じられない」と言う声が多数聞かれます。かつての金科玉条の石炭産業の軸足を、石炭から未来あるグリーン産業へと移す時期に来ています。経済の方向性を変えて雇用を創出する、釧路の将来が違ったものになるのでしょう。

気温が4℃上昇することは

 「あなたたちはなぜ石炭発電所を問題視するのか」とよく質問を受けます。

 気候危機を回避するために、現在、私たちの取り得る最大かつ効果的な手段が二酸化炭素の排出の削減でだからです。

 温室効果ガスには、水蒸気、メタン、二酸化炭素などがあります。

水蒸気は、海、川などから蒸発して空気中に取り込まれます。

メタンは農業で土を作り出す際に排出されます。二酸化炭素は、われわれの生活の中において、車、飛行機、工場、発電所などから排出されます。水蒸気やメタンの排出を抑えることは困難を伴うのに対し、二酸化炭素は、わたしたちが生活様式を変える、使うエネルギーを再生可能のものに変えることにより削減が可能になります。

 特に石炭発電所は二酸化炭素を大量に排出し、同じ発電でも天然ガスの約2倍に相当します。それゆえに石炭発電所を問題視します。

 釧路石炭火力発電所一基で、すべての釧路市民16万人が出す二酸化炭素の量に匹敵します。

 平成30年の7月豪雨ては四国地方の総雨量が1800ミリに達して224名の人命が奪われました。

 それに続く猛暑は、埼玉県で全国歴代1位の41.1℃を記録して、熱中症の死亡者が133名、救急搬送された人は5万4200名にも及びました。

 次に来襲した台風21号は、全国927観測地点のなかで、100カ所が史上最大風速が発生しました。高潮も1961年の室戸台風の記録を上回りました。

 現在、産業革命(1760年)前に比べて約1℃の上昇が確認されています(国連気候変動会議、世界の陸地、海の平均気温)。

 人々が今の生活を続けて行くと、今世紀末には3℃から4℃上昇すると多くの科学者が表明しています。

 4℃の温度変化がどのような生活環境の状態を作り出すのでしょうか。

 地球の気温が現在よりも4℃低い時代がありました。今から2万1000年前、最後の氷河期の最盛期の時代です。

 この時代の海面は現在よりもはるかに低い状態でした。シベリアから北海道、北海道から九州まですべて地続きで、瀬戸内海も陸地でした。シベリアとアラスカも地続きだったため、シベリアの東の果てからアメリカ大陸へ渡った人々も多数おりました。

 地球環境は2万1000年の長い歳月で4℃の気温の上昇を行いました。

 経済第一主義のもと、私たち人類はわずか300年ほどで、4℃の気温の上昇を作り出してしまいそうな状況にあります。

 二酸化炭素を大量に排出する石炭火力発電所は今すぐ止めなければいけません。

 それが、今、釧路市民の選択すべき決断です。

PDFファイルです。

https://nocoal-kushiro.jp/wp-content/uploads/2021/05/釧路会報20号.pdf