釧路石炭火力発電所と地元炭鉱の現状
(この記事はsekitan.jpに2020年1月9日に掲載された記事です)
釧路の石炭火力発電所新設計画
北海道釧路市の釧路火力発電所計画は、国の環境アセスメントの対象外となる設備容量が11.2万kWの発電所である。地元の炭鉱から掘り出した石炭を燃料として発電し、地元でその電気を消費する、”地産地消”をかかげ、計画は進められてきた。2019年12月に稼働予定だったこの計画は、いまだ稼働していない。一体どうなっているのか。現地を訪れてみた。
水産・製紙・炭鉱の町・釧路では、2002年1月、閉山した太平洋炭鉱の採掘事業を釧路コールマイン株式会社(KCM)が引き継いだ。かつて500万トン/年あった採炭量は、KCMに引き継がれた当初で70万トンに落ち込んでおり、さらにその後減少。KCMの採炭量は減少に伴い、石炭を運搬する列車は2019年6月に廃線となった。人気のない寂れた炭鉱は、お世辞にも活気のある場所とは言えなかった。
それでも今、KCMの採炭事業は、地元企業や金融機関、行政が一体となって地域振興に位置づけられ、地元をあげた一大事業となっている。地元で採掘した石炭を地元で使うため、2015年に発表された釧路火力発電所建設計画は、当初地元で”歓迎”されたかのように報道されている。しかし、その計画も2018年12月、稼働延期が発表された。当初は2019年12月の稼働を予定していたが、「寒冷地の事情を踏まえ、想定していた資材運搬の時期や工事の作業工程を見直して、延期を決めた(報道)」という。近隣の人たちの話では、その後も工事が進んでいるようには見えないと言う。
計画遅延の本当の理由はわからない。冬場に工事が進められなかったわけではなく、実は調達部品にミスがあったためだなどという人がいたが、それも憶測の域を出ない。事業者の発表では、2020年4月に試運転を開始するらしい。
釧路コールマインの炭鉱の現状
一方、釧路火力発電所では、年間20~30万トンの石炭とバイオマス燃料を利用すると公表されているが、そもそも日本で唯一残ったこの炭鉱で、これ以上本当に石炭が採掘できるのかという疑問を地元の関係者たちが抱いていることもわかった。
下の地図は太平洋炭鉱の坑内概況図である。陸地の採炭場ではすでに掘り尽くし、その後海底下を掘り進めた部分が青い部分である。炭鉱現場で働いていた人の話によれば、浅い海底下ももはや掘れる石炭は残っておらず、掘れても残渣程度だという。
しかし、報道によれば、これまでの採掘方法から釧路火力発電所用の年間30万トン体制にシフトするために、採炭方式を変更する予定だとされる。その総事業費13億円のうち約3分の2にあたる8億円を国が北海道産炭地域振興センターを通じて産炭地域振興対策として助成する見通しがたち、また、釧路市も貸付金として4億円を措置したという。
こういう状況だが、このような巨額を投じて新たな採炭設備を導入しても、もはや採炭できる石炭は残っていないし、その設備を動かせる技術者すらKCMには残っていない、とかつての炭鉱労働者たちは冷ややかに見ている。
釧路コールマインでは現在、シールド枠(S)とドラムカッター(D)の組み合わせによるSDロングウォール方式と呼ばれる採炭システムが用いられている。太平洋炭砿時代に年間250万㌧を出炭した実績を持つが、出炭量が縮小した現在では無駄が多く、災害のリスクも抱える。
年間30万㌧体制へのシフトに当たり、ルームアンドピラー方式での採炭に転換を計画しており、それに向けたシステムの更新が必要。また、今後は大半が建設中の釧路火力発電所で消費される見通しにあり、石炭列車による運搬もなくなったことから積み込み施設改修などにも取り組む。
総事業費は約13億円で、このうち約8億円は北海道産炭地域振興センターから助成金が下りる見通しとなったため、今回の補正で6億円を計上。残りは来年度の債務負担行為として限度額1億9950万円を設定する。このほか、市から同社への貸付金として4億円を措置。残り約1億円は同社が自己負担する。(北海道建設新聞2019年9月6日より)
最初から最後まで無理ある事業計画だった
そもそも、この計画には最初から最後まで無理があった。
釧路には日本製紙釧路工場、王子マテリア釧路工場と大きな製紙工場が2つあり、日本製紙には石炭火力発電所(8万kW)の施設もある。こうした工場では大量の石炭を使っているが、王子マテリア釧路工場はコールマイン炭を使用しているというものの、多くは海外から輸入した石炭を燃料としている。工場の近くでは、石炭があちこちで野積みされ、巨大な煙突からはモクモクとグレーがかった煙が吐き出されている。こうした工場で釧路産の石炭が使われてこなかったこと自体、KCMの石炭の採算が悪いことの証だ。
一度は閉山としたはずの太平洋炭鉱の鉱区地を、KCMは採掘減、人員減、資金不足の中で無理やり動かし続けた。かつて炭鉱として栄えた活気を取り戻したいという地元の人たちの情熱があったのかもしれないが、そこには将来を見据えたビジョンがあったのだろうか。本来は石炭産業から別の産業に移転することに使うべき産炭地域振興対策の予算を、再び石炭採掘のために使うという点でも長期的な展望は感じられない。そして、実際に予算を投じたところで、そこに掘る石炭がなければ、発電所にも燃料を供給できない。「地産地消」の看板をかかげながら、実際は「地産」ではなく、釧路火力発電所の地主である太平洋興発が扱う輸入炭を使うつもりなのだろうか。
一方、釧路火力発電所に出資するIDIインフラストラクチャーズ(代表取締役社長:埼玉浩史氏)が手掛けている電力小売事業者F-Power(代表取締役会長兼社長:埼玉浩史氏)は2018年6月期決算で120億円の赤字を出し、その後の事業整理で2019年に「北海道エリアからは撤退」したと社長自らが語っている。地産地消の「消(地元で消費する)」でも、危うくなっている。
このように、釧路火力発電所計画当初に描いていた青写真は、大きく歯車が狂いだしていることは明らかだ。強引に推し進めたとしても、うまく回らない可能性が非常に高いだろう。
最後に
釧路は釧路湿原が広がり、少し足を伸ばせば、阿寒湖、摩周湖、屈斜路湖など自然豊かな観光名所が数多く日本でも有数の魅力的な観光地である。昔から漁港としても栄え、海の幸にも恵まれている。
一方、霧の街・釧路の霧は今、「酸性霧」になっているという。また、数年前には釧路市や根室市で爆弾低気圧や高潮の被害にもあった。気候変動の影響も甚大になり、釧路湿原の乾燥化の恐れもあり、環境の悪化は免れない。
これ以上、環境を悪化させる石炭火力発電所を新たに動かすことが本当に地元のためになるのか、関係者も今一度考えなおすべきときではないだろうか。