会報第15号発行:釧路火力、試運転で激しい振動 轟音で安眠を妨害される住民

菅首相、2020ゼロエミッション宣言
石炭火力政策は抜本的転換

 10月26日、菅義偉総理が所信表明演説で「グリーン社会の実現」として次のような表明をしました。

  • 我が国は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す
  • 長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換する

 すでに多くの国が昨年までに2050年排出ゼロを宣言していましたが、ようやく日本もそのスタート地点に立ったことを意味します。2050年に排出をゼロにするというのは、パリ協定で定める「1.5℃目標」を達成するために不可欠の目標です。また同時に2050年までの過程も非常に重要で、2030年には石炭火力を全廃する必要があります。
 アメリカ大統領選挙では、気候変動対策に否定的なトランプ氏ではなく、積極的なバイデン氏が当選しました。今後は気候変動政策に特に力を発揮されるでしょう。石炭火力も2035年までになくすと表明しています。
 化石燃料・石炭はもう使えない、終わりを迎えているのです。
 このような流れの中、釧路火力発電所は2020年から新規で石炭を稼働するというのです。これは、世界的な合意・パリ協定から大きく外れるだけでなく、日本政府が宣言した2050年排出ゼロという方針にも整合しないことになります。
 気候危機の時代を迎え、私たちの地域においても影響が出ており、漁業や農業など一次産業においては特に深刻です。脱炭素社会に突き進み、気候を保護する世界的な流れをふまえ、釧路火力発電所の在り方を改めて見直していくべきでしょう。

釧路火力、試運転で激しい振動
轟音で安眠を妨害される住民

 釧路石炭火力発電所は、亜臨界圧(Sub-C)という効率の悪い発電方式を採用した、いわゆる“非効率石炭発電所”です。石炭の年間消費量は約26万トン。一日に換算すると約700トンで、10トントラック70台分にあたります。
 かつて釧路の寒い冬は、太平洋炭坑の石炭を家庭で暖房として使っており、家庭で燃やす場合は石炭を固まりのまま焚いていました。
 ところが、発電所の場合は事情が変わります。石炭をバーナーから吹き出して燃やすために、固形のままではなく粉状にするのです。粉状の石炭は搬入シュートを通してボイラーに注入します。その時に石炭が搬入シュートに固まり付かないように振動を加えなければならず、これが稼働中ずっと繰り返されます。
 本格運転すれば、この作業が1分間に10回、1時間に600回、1日になんと14,400回もの振動が発生し、365日続きます。
 その騒音レベルは工業地帯の環境基準(震度2程度)を満たしていると言いますが、200メートルほどしか離れていない住宅は絶え間ない振動と音に悩まされることになるのです。
 住宅地が近い立地で、我慢の限界を超えるような振動を発生させる石炭火力発電所を稼働させることはとても許されることてはありません。

IDIインフラストラクチャー社長交代劇
ー大株主・大和証券とみずほFGの誠意ある対応に期待ー

 釧路石炭火力発電所を経営しているIDIインフラストラクチャーズは、東京都港区青山の外苑前のビルディング内に本社があります。今年10月、代表取締役社長がその役職を解かれ、代わりに大和証券出身の荒木秀輝氏が新たに就任しました。
 ちなみに、当初、釧路石炭火力発電所の本社はこの本社と同じ東京港区の青山にありました。しかし、発電所説明会で地産地消を担う釧路石炭火力発電所の本社が東京にある不自然さを問われ、慌てて住所を釧路市に移した経緯があります。
 IDIインフラストラクチャーズの大株主は、IDI(インダストリアルディシジョンズ)と大和証券です。さらに言えばIDIの大株主はみずほ証券でみずほフィナンシャルグループ(FG)のグループ会社になります。つまり、釧路石炭火力発電所の経営に強い影響力を与えているのは大和証券、みずほFGになり、両者ともESG投資を表明している企業です。ESG投資とは、環境と社会を重点的に考えること。環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資のことです。
 ESG評価の高い企業は事業の社会的意義、成長の持続性など優れた企業特性を持つと言われます。このような理念を表明している企業が、現在私たち釧路住民に降りかかっている、発電所からの大騒音、異常振動、排煙の有害物質の排出、異臭等に日々頭を悩ませていることをご存じなのでしょうか。
 大和証券やみずほ銀行の支店は釧路のメインストリート釧路北大通にあります。すなわち、両社は日本の大手企業であると同時に、釧路においても、長年市民ととも歩み発展してきた、市民が大変身近に感じている会社です。
 石炭火力発電所の新たな運転開始により気候変動を加速させてしまうこと、釧路の住民に受忍限度を超える騒音や振動をはじめとするさまざまな公害をもたらすことは、本来、両社が望んでいることではないはずです。
 大和証券、みずほFGに対しては、釧路石炭火力発電所の本格稼働を中止するよう強く要望したいと思います。

パーム椰子殻の燃料だったらいいの?
-“バイオマス混焼”の問題-

 釧路火力発電所の当初の計画では、石炭燃料に加え、バイオマス燃料であるパーム椰子殻(PKS)を30%程度混ぜるとしています。バイオマス燃料とは、木材など植物由来の燃料のことで、木は切り倒した時点でCO2の排出をカウントするため、燃焼時のCO2排出はカウントしません。そして、木は植えなおせばCO2の吸収源になることから、実質排出ゼロを意味する「カーボンニュートラル(炭素中立)」といって、再生可能エネルギーに位置付けられているのです。
 しかし、バイオマス混焼だから良いという話ではありません。PKSには様々な問題があります。まず第一にパーム椰子の大量消費のために大規模な森林伐採などの可能性があることです。オラウータンが住む生態系豊かな森が切り倒され、プランテーションでパームだけに植え替えられれば大規模な生態系破壊を伴います。第二に、炭素中立といっても、実際には生産・加工・輸送等の段階で化石燃料が使われ、加工過程や燃焼の際にメタンガスやN₂Oといった温室効果ガスが排出するケースもあります。場合によっては化石燃料以上に温室効果ガスを排出することすらあります。また第三にパーム椰子農園での不当な労働環境が指摘されることもあります。
 そもそも地産地消をうたっている発電所が、遠く海外からパームヤシ殻を調達して使用することには矛盾が生じるでしょう。

釧路石炭火力発電所を考える会会報第15号