会報第16号発行:課題山積の釧路火力、本格運転を宣言

課題山積の釧路火力、本格運転を宣言
気候変動対策に逆行、騒音振動問題も未解決の中で

 12月4日、釧路石炭火力発電所は、商業運転をこの日から開始したとして、記者会見を行い、地元の新聞やテレビでも大きく取り上げられました。”釧路で地産地消の石炭火力発電所を建てよう”と推進してきた事業関係者、釧路市、関係市議などはこの「本格運転開始」に対して歓迎ムード一色ですが、近隣住民からは不安の声が大きくなっており、全国からは「なぜ今さら石炭火力を動かすのか」との疑問の声が絶えません。
 この石炭火力発電所は、経済産業大臣が「非効率石炭火力のフェードアウト」の議論を本格化するとした今年7月、そして菅首相が2050年の温室効果ガス排出ゼロを宣言した10月26日、新規ではじめて動く石炭火力発電所になります。しかも、非効率石炭火力(亜臨界圧/Sub-C)です。政府の2050年ゼロカーボン宣言の本気度を見極める試金石ともなる石炭火力発電所であるため、その動向は国内外から注目を集めていました。
 釧路火力発電所を考える会では、この前日に声明を発表し、(1)近隣の騒音問題が解決していないこと、(2)大気汚染物質の公害防止協定上の値が高く設定され、脱硝装置などが取り付けられておらず、煙突も低く住民への健康被害が心配されること、(3)気候変動対策に逆行することなどから、発電所の運転中止を訴えました。しかし、残念ながらこの声は事業者側に受け入れられることなく、「本格運転」となりました。
 ところが、この発表があった当日から、実際に100%フル稼働している様子はなく、その後も煙は出ていません。フル稼働すれば一日に約700トンもの燃料を燃やすことになるはずですが、10トントラックが貯炭場から70往復している様子も見られません。いったい何が起きているのでしょうか。なかば強引に「本格運転」を発表して既成事実を作った感は否めません。
 今、科学者の予測を上回る規模で気候災害が世界各地で起きています。多くの人たちが長年暮らしてきた土地を奪われ、命を落とす事態が起きているのです。そしてその気候危機を回避するために、世界的に化石燃料からの脱却に向けた社会の大転換が求められ、大気中に二酸化炭素を排出する余裕は全くありません。
 釧路火力は売電先が見つからない事態が続いたといわれますが、背景にはこうした時代の急激な変化があります。多くの電力ユーザーが求める電気は自然エネルギーなのです。現実を直視しないまま、釧路石炭火力発電所を動かしても、地元に恩恵をもたらすことはないでしょう。

釧路火力は高効率か、非効率か?
国の審議会でも釧路火力稼働が問題に

 経済産業省による「非効率石炭火力のフェードアウト」の議論をきっかけに、「釧路火力発電所は非効率石炭火力か」という点が問題になっています。
 そもそも石炭火力の効率とはなんでしょうか。石炭火力の発電技術は蒸気条件で決まります。釧路火力発電所の場合、蒸気圧力が22.1MPaなので、下表で示す亜臨界圧(Sub-C)にあたります。蒸気条件は設備の大型化とともに改善され、効率を上げてきた経緯があります。11.2万kWという規模では亜臨界が限界です。

石炭火力の発電技術と効率 出典)Japan Beyond Coal


 ところが、釧路市議会の石炭対策・関連エネルギー調査特別委員会で、釧路市産業振興課の石原主幹は釧路火力の発電効率は55.1%と答弁しています。本来、約38%程度の効率のものが、なぜ55.1%になるのでしょうか。そのカラクリは省エネ法にあります。
 2015年に省エネ法のもと火力発電のベンチマーク制度が創設され新規や既存火力の効率基準が定められました。その中で、発電効率算出方法の特例が設けられ、バイオマス混焼については、バイオマスのエネルギー量を全体のエネルギー量から差し引いて効率を算定できることにされているのです。おそらく、釧路市議会石特委員会での説明もこの算定方法を用いて計算されたものと思われますが、答弁するなら、まずその元になる実効率を示すべきでしょう。省エネ法の算定は机上の数値を算出するものであり、実際多くの批判が出ています。そして、本来はバイオマス混焼すると効率が下がるとさえ言われているのです。
 12月7日に行われた経済産業省の産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会 資源・エネルギー作業部会でも、委員の一人が、非効率火力のフェードアウトの議論がある中で釧路石炭火力発電所が運転開始したことを問題に上げ、業界団体の指導力を発揮してほしいと主張しています。
 釧路火力は高効率だといくら主張しても、技術レベルは亜臨界であり、非効率石炭火力に該当するという事実は変えられません。

うなり音は変圧器から?
防音壁の対策も不十分

 釧路石炭火力発電所で作られた数十万ボルトの電気は、6万ボルトの電気に変圧されて送電線に送り出されます。
 発電所に必ず設置されるものに変圧器があります。変圧器はその宿命として、電圧を下げる際、磁励音と呼ばれるジーンというようなうなり音が発生します。よく電柱上の変圧器や工場、学校のキュービクルからジーンという音が聞こえることがありますが、あの音が変圧時のうなり音です。
 通常、発電所の変圧器の設置にあたっては、騒音が発生することを前提に、設置場所を慎重に選択し、場合によっては地下に設置場所を建設し、堅牢な防音対策が行われます。
 おそらく釧路火力発電所の騒音の原因の一つとして考えられるのは、数十万ボルトを変圧する変圧器ではないかと考えられます。
 発電所側は住民への説明で、音の発生を抑えるために防音壁で囲っていると説明しています。しかし、航空写真や周囲の状況を見ると、単なる低い柵を回しただけのように見えます。実際、防音されていないのですから、対策が不十分だと指摘せざるを得ません。
 ばいじん対策も不十分、煙突の高さも不十分、そして変圧器の防音対策も不十分。住民の健康や安全を犠牲にし、コストカットの徹底でしょうか。いずれにしても、釧路発電所は対策の詳細をわかりやすく情報開示すべきです。

釧路火力発電所を考える会会報第16号(PDF)